中国には伝統的な中医薬薬局が数多く残されている。「…堂」と大きな看板が掲げられ、いかにも老舗の薬局の雰囲気を醸し出しているところも少なくない。一般に、1階には中成薬や西洋医薬の薬、2階には中医師によるちょっとした外来施設と生薬を配合する場所が設けられているのが一般的だ。
たとえば「人参」といえば、日本では緑黄色野菜の人参をさすが、中国ではいわゆる滋養強壮などにつかう生薬の「人参」をさす。これら中薬の薬局には立派な赤い箱に人参が陳列されていて、高価なものになると数千元するものもある。その他、日本人にはおなじみの鹿の角や冬虫夏草など高価な生薬が陳列されているが、すべての人が高価な生薬を服用する必要はなく、また高価な生薬ほど薬効が強いものも少なくないため、専門家のアドバイスに従って目的にあったものを選びたい。
その他、薬膳料理に使う生薬の材料も数多く陳列されている。値段も比較的お手ごろ。
●薬酒
有名な薬局にいくと必ずいろいろな薬酒が展示されていてオリジナルの物も少なくない。酒のなかに生薬をはじめ、動物など様々なものが漬けられている。実は中医学と酒は切っても切れない関係にある。医の字は、繁体字では「醫」と書くが、この「酉」の字はズバリ「酒」から来ているともいわれている。現在、数多くの薬酒が使われているが、基本的に体を補う性質のものが多い。中医学では「補気血」と表記されたりする。また腰痛などに効果があるとされているものも少なくない。服用方法は様々だが、一般に1日1回から3回、空腹時に10-30mlほどの量だ。それぞれの薬酒によって服用法が違うので、確認していただきたい。当然すべての人が薬酒を飲めるわけではない。一般に、慢性腎炎や肝炎、肝硬変、消化器系に潰瘍がある人、高血圧の持病がある人、心臓病がある人、また発熱・嘔吐・下痢などの症状がある人も服用を避けたほうがよいとされている。
●膏方
冬至の時期を中心に、上海地区では膏方の時期に入る。膏方とは、普通の煎じ薬よりもさらに濃く、また甘く味付けされたシロップのようなもので、壷にいれて保管する。普段は冷蔵庫に保管しておき、服用時はお湯に溶かす。冬にしっかりと体を補っておき、夏に備えて体の調子を整えておこうという発想だ。季節の流れと、体調を考慮した中医学ならではの養生法とも言える。こちらも医師が患者の各々の状態にあった処方箋で膏方を処方してくれる。特に喘息やアトピー、胃腸病、腎臓病など慢性疾患のある患者は、市内各地の中医病院の各科で専門の医師に診察してもらって、膏方を処方する。有名な医師になると、処方をもらうためにも予約が必要なぐらいで、市民に絶大な人気がある。生薬から膏方にして壷に詰めるまでの加工は、中医薬局がやってくれる。