一時は不動産ブームで、過熱気味だった上海の不動産市場は、いまではすっかり熱は冷め、値下がりも顕著になってきた。その大きな理由は、政府による規制強化で、度重なるローン金利の値上げ、さらに銀行によるローン審査の厳格化が転売を非常に難しくした。しかし、投資用の住宅熱は冷めても、相変わらず居住用のニーズは高く、良い物件は値崩れを起こしていない。短期投資から長期を見越した投資にシフトしてきたことが明らかだ。たとえば、以前は地下鉄さえあれば値段はいくらでも上がったが、最近はとくに環境面での要素が大きく、公園に近いかどうかやマンション敷地内の緑化率がどれぐらいかなど本質を見極めた選択が重要視されている。
不動産取引の透明化を図るために、上海市ではインターネットによる取引を導入している。上海市の関係部門である上海市房地産交易中心のサイトに、上海市内の取引可能な物件の情報がすべて登録されており、自分が購入しようとする物件がいま権利上どういう状態になっているか、販売可能な物件であるのか、などかなり詳しく検索できる。さらに、このシステムを使えば、仲介業者なしでも合法的な不動産取引が行え、画期的な試みといえる。
中国のマンションといえば、内装なしのスケルトン状態での引渡しが中心だったが、政府の指導もあり、徐々に内装つきのマンションに移行している。しかし、まだまだ内装されていない住宅が多く、住宅購入には内装工事が必須だと覚悟しておく必要がある。スケルトン状態の住宅は、まったくの空で、コンクリートや配管むき出しの状態であり、とても住めるような状態ではない。また、表示面積はそのフロアでの共有部分を含めた面積なので、例えばエレベーターがある物件の場合、実際の表記面積の70~80%になる。
住宅購入の資金に関して、海外からの資金流入を規制するため2005年10月より住宅購入目的での上海非居住者の100万米ドルを超える送金は中国国家外匯管理局に申請をしなければならないことになった。
ローンに関しては、外国人も中国の銀行から人民元の住宅ローンを組むことができる。しかし、投資目的で購入される可能性が極めて高い高級物件に関して、ローン審査を厳しくしている。住宅ローンは物件を抵当に10年から30年単位で組めるが、頭金は従来の20%から30%に上げている銀行が多い。人民元ローンの金利は年々上昇しており、現在は住宅購入に対して行われた優遇処置も廃止されて5%を超えている。なお、人民元でローンを組んだ場合、海外からの送金問題がネックになる。よって、外国人にとっては外資などの大陸系統以外の銀行でドル建てローンを組むほうが利便性が高い。
住宅購入の流れ
- 情報収集が肝心。最近では街角の売店などで不動産雑誌が売られているので、チェックは欠かせない。
- 自分が購入したいエリア付近で、大手の不動産業者に聞いてみよう。また、現在建築中の物件なら、販売所に顔を出してみてパンフレットをもらおう。詳細な模型なども置いてあり、ここでかなりの情報を把握できるはずだ。中国では建築中のマンションでも「期房」(Qi1 Fang2)といって購入することができる。人気物件はこの段階でも売り切れる。
- もし気に入った物件が決まれば、仮契約を結び手付金(中国語では「意向金」)を支払う。このとき身分証明書を忘れないようにしたい。ローンは開発業者が紹介する銀行を使うのが比較的楽だ。納税証明書など所得を証明できる証明書とパスポートでローン審査が行われる。
- ローンがある場合は頭金を支払う。仮契約を済ませてから1週間から10日ぐらいに支払うのが普通。建物が完成していない場合でも、ローン契約後にローンの支払いは開始される。
- 本契約。外国人の場合、契約書等を上海市の公証役場で公証してもらう必要がある。建物引渡し後、各地区にある「房地産交易中心」に登録申請する。このときに契税を支払う。ここから内装にとりかかることができる。2ヶ月ほどで「上海市房産権証」が下りると、正式に使用権を取得したことになる。このとき安全のために「上海市房産権証」に5桁のパスワードを設定できる。
一気に複雑化した不動産の税制度
2005年に入って、不動産の購入にかかる税制度が幾度となく改定されている。以前は不動産所得税に相当する契税しかなかったが、この税率も高級物件に関しては1.5%から3%に値上がりした。
●不動産を購入した場合
契約税…高級物件の場合は不動産価格の3%、普通物件の場合は1.5%
印花税…不動産価格の0.05%
●不動産を売却した場合
営業税…2005年6月より不動産を購入して2年に満たない物件の場合は、5%の営業税がかかるようになった。
城市維護建設税…営業税の7%
教育費付加…営業税の3%
印花税…不動産価格の0.05%
不動産売却によって生じた利益に対する土地増値税
不動産売却によって生じた利益から必要な費用を差し引いた額の20%の個人所得税
●不動産を貸した場合の家賃収入にかかる税金
営業税…毎月の家賃収入の5%
房産税…商業用の場合は毎月の家賃収入の12%、住宅用の場合は毎月の家賃収入4%優遇処置がとられている。
そのほかに城市維護建設税、教育費付加、印花税、個人所得税がかかる。
豆知識
上海でのマンションは高級物件と普通物件とに分類され、税率などで差が出てくる。普通物件とは以下の条件をすべて満たさなければならない。
- 住宅地の容積率が1.0以下
- 1軒あたりの建築面積が140平米以下
- 内環状以内なら1平米あたり17500元、内環状~外環状なら1平米あたり10000元、外環状以外なら1平米あたり7000元。
土地使用権70年の問題
中国では住宅の場合、土地使用権は70年となっている。しかし、工業用、商業用などの目的で使用される土地の場合は40年から50年と短い。住宅を購入するときに気をつける必要があるのは、その物件の土地の使用権の属性と、あとどれだけの使用権が残っているかという問題だ。とくに一時投資熱が高まったサービス式アパートメントの場合、商業用やその他の目的の土地に属する場合が少なくない。
中国政府では、現在70年後の土地使用権の問題をどうするか討論が始まっている。まだ結論が出ていないが、「物権法」の草案から判断すると、70年を超えても土地が使用できるように制度を改定する可能性が高い。
面倒だけど楽しい住宅内装
内装付のマンションが増えたとはいえ、まだまだ付属の内装が十分とはいえず、内装をやり直す人が多い。また最近、外国人の間でも自分でマンションを買って自分の好みで内装をしてしまう人も増えた。内装する場合、業者に完全に任せてしまう「全包」と自分で大工と材料を探してきて行う「清包」の2つに分かれる。上海人の場合、業者による工事をほとんど信用していないので、自分でおこなう「清包」方式で内装を行う。
内装工事をすると、和室を作ることができるし、風呂もゆっくりと浸かれるようなバスタブを導入できる。給湯器も自分で選べるので、お湯の問題も心配ない。もちろんシステムキッチンも好みのものを作ってもらえる。中国の家庭では一般的ではない玄関も作ることができる。なによりも、材料は大工が使う鉛筆一本、釘一本から自分で選ぶので、環境や体にやさしい内装にできる。しかし十分に吟味しなければ、シックハウスの問題が出てくる。中国で発生している子供の白血病の原因に、内装による影響が指摘されているほどだ。
いまだに多い内装なしのスケルトン式マンションの場合、電気配管から水周りまですべて施主が行う。そのため、専門の設計士と相談しながら、構想を練っていく。大工は上海人の友達がいれば、大抵内装経験があるので、彼らから紹介してもらうとよい。大工のほとんどは江蘇省からの出稼ぎ労働者で、内装現場で寝起きしながら仕事を進める。大工の技術が内装の完成度と直接関係するため、しっかりと吟味したい。木材などの材料はホームセンターから調達する。巷の店でも売られているが、偽物や劣悪な商品が多く、ホームセンターのほうが信用できる。畳やふすま、障子などはすべて現地で調達できるし、フローリングなども日本向けに輸出されているものが簡単に手に入る。
大工を雇う場合は、大工との交流が大切。たとえば、彼らのほとんどは和室などを作ったことがなく、写真や実物をみせてしっかりと理解させなくてはいけない。施主が現場監督を務めるわけだから、頻繁に現場に通わなければならない。この過程は非常に面倒だが、完成した住宅にはとても愛着がでてくる。家が完成してからも、大工との付き合いが続き、内装にトラブルがあったときもすぐにやってきてくれる。
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